自分に戻る海辺のセカンドハウス
2017/11/15
都心から、車を走らせること2時間。目に飛び込んでくる蒼い海と頬をなでる心地よい風。さっきまで戦闘モードだった心が、不思議と鎮められていく。海沿いの道をひたすら走り抜け、曲がりくねった山道をのぼりきる頃には、オンからオフへとシフトチェンジ。
週末がくる度に訪れるセカンドハウス。張りつめた日常から開放してくれる場所。
そこは、築40年あまりのリゾートマンション。外観の古めかしさは否めないが、海を見渡すロケーションは申し分ない。扉を開けると、リビングのガラス戸からこぼれる明るい光。まるで導かれるように窓辺のソファーへ一直線。
いくらオフモードだからと言っても、今どき、どこにいたって仕事からは逃げられない。一息ついたら、やりかけの企画を考える。行きづまったら、ソファーからバルコニーへ。それでもダメなら、ダイニングのベンチへ。寝そべったり、あぐらをかいたり…ここには居心地のよい場所があちこちにある。



中古マンションを購入するには迷いもあった。手をかけなくても使えそうな、程度のよい物件にも心が動いた。でも、どこかに必ず妥協が生じる。迷ったたどり着いた答え…男は潔くフルリノベーション。
内装には結構こだわった。こだわり抜いた!と言えば、格好はいいが、実際には、自分の思う通りに、好きにやってみた。リビングの壁は土壁、漆喰。床はもちろん、天井も無垢の木材で仕上げた。マンションなのに、栗材の立派な大黒柱だってある。



日が傾いて、海がオレンジ色に輝きはじめたら、今夜のメニューを思案する。大した腕もないのに、こだわってつくったオーダーキッチン。カタチから入るのも悪くないだろうと、強火力のビルトインコンロと大きなシンクも入れてみた。
どうやら、格好いいキッチンは、つくり手を主役に引き立てるらしい。その気になれば、だんだん腕も上がるようで、たまに集まる友人たちからの評判も上々。フランベの炎を高らかに上げて、ちょっとした歓声を期待してみる。



このマンションを選んだ理由の一つが温泉。熱海と言えば、言わずと知れた温泉の街だが、わざわざ施設に出向かなくても蛇口をひねれば、温泉が楽しめる。たっぷりと湯をはった湯船にカラダをしずめると、ほんのりと浴槽の桧の香り。
夜も更けて、赤いテールランプが連なるビーチラインの車列を眺めながら、ゆったりと日頃の疲れを癒す。心の片隅に残っていた小さな遺恨やくだらないプライドも、きれいさっぱり洗い流してしまおう。


この家のあちこちに居心地のいい場所はあるけれど、やはり一番落ち着くのは寝室。たまにはゆっくり本でも読もうとベッドサイドに持ち込んでみるが、10ページと読み進めた試しがない。やわらかな照明の光が、心地よい眠りへと誘う。



秘密基地のようなこの部屋をもって、肩の力を抜くことを覚えた気がする。自分が自分らしくある場所、帰るべき場所が見つかったのかもしれない。
いつだって背伸びしながら大人になった。そんな自分の等身大のセカンドハウス。


自然と共に、地域と共に暮らすのびやかな毎日
2017/11/10

暮らしの舞台は、三浦海岸を見渡す山あいの斜面地。「周辺の豊かな自然環境と共生する暮らし」「近隣や友人知人、みんなが集まる家」を思い描いて家づくりを進めたAさん家族の毎日は、まさにその思いを体現したもの。自らの手でととのえた庭で、家庭菜園を楽しむ。友人と土間市(マルシェ)を開いて、地域の輪を広げる。講師として開く天然酵母のパン教室には、毎回たくさんの笑顔が集まる。
自然あふれる土地で、全てを楽しみ、慈しみ、丁寧に暮らす姿がそこにある。

1階の各室をゆるやかに仕切る曲線の土壁。リビング・ダイニング、キッチン、家族室…どこにいても家族の気配を感じられ、それぞれが心地よく過ごせる家。食卓にのぼるのは、家庭菜園で育てた新鮮な野菜やハーブ。庭でつんだ草花が、さりげなく窓辺を彩り、心をなごませてくれる。
艶が出て味わいを増した梁や床。子どもたちの生長を刻み込んだ柱。暮らしを取り囲むあらゆるものが、日々の積み重ねと、この家で過ごした家族の記憶を物語る。



吹き抜けからふりそそぐやわらかな光。地窓から高窓へと導かれていく風。その土地の自然の力を最大限に取り込み、生かして、日々を心地よく暮らす。大黒柱や梁は、この敷地に建っていた古家の古材を再利用。昔からこの土地にあるもの、地域のもの、環境に負荷をかけない自然のものを用いて、一つ一つ手仕事でつくりあげた家。一枚一枚表情の違う地松の階段踏み板にも、自然と愛着がわいてくる。



月に一度、仲間たちと開く土間市(マルシェ)。天然酵母の手づくりパンや野菜、友人たちの作品がずらりと並ぶ。共通するのは「安全でおいしいもの」「気持ちいいもの」。手間暇惜しまず丁寧につくられたものを求めて、地域の人たちでにぎわう。
広い土間スペースに軒下の縁側デッキ。内から外へゆるやかに続く空間が、人が集まる仕掛け。ときにはワークショップを開催して、大人から子どもまで、夢中になって同じ時を過ごす。
家づくりにあたっても、土壁塗りや農小屋づくりなど、多くのワークショップを開いてきた。遠方からもたくさんの人が参加してくれて、みんなで楽しみながら家づくりが進んだ。家は家族だけのものではない。近隣や訪れる友人のものでもある。これまでもこれからも「みんなをつなぐ家」でありたいと願う。



普通の家にはない、もう一つの楽しみ。それは屋根の上にある。
海を一望できる広い草屋根に上ると、まばゆい太陽と、心地よい海風。芝の上に寝転んで海や空を眺めていると、自然と一体になったような気持ちになれる。空気が澄んだ冬の空、ここにはどんな星空が広がるのだろう?そんな思いを馳せずにはいられない場所。


屋根を緑化すると、高い断熱性を発揮して、屋根からの熱気や冷気による影響を受けにくくなる。

高低差のある敷地の上から眺める我が家は、自然の中にとけこむ土壁と草屋根の家。
約600坪の敷地に、自ら手を入れ、少しずつ庭を整えてきた。篠竹を刈り、木々を間引き、薪小屋や農小屋、ビオトープも完成させた。自らが奮闘し、また多くの仲間たちの手を借りて、一つ一つ変化と進化を続けていく。この住まいに完成形はないのかもしれない。いつも未来に向かって開かれた家。



薪は、寒い冬を乗り切るための貴重な燃料。薪ストーブの心地よいぬくもりを知ってしまうと、こうして薪を集めてストックすることも、大きな手間には感じない。
ニワトリが草をついばむのを横目に、コンポストをかきまぜる。できた堆肥は、いずれ畑へ。自ら育てた、新鮮で、時にふぞろいな野菜が、食卓に笑顔をもたらす。都会の喧騒を離れて移り住んだ、自然あふれる静寂の地。
思い描いていた暮らしに一歩ずつ歩みを進める。





















