地震に強い伝統工法
安易な金物に頼らず、木だけで組むことによる強靭さ
現在の住宅に普及している在来工法は、柱や梁などの木の接合部は金物で繋ぎ留めます。しかし金物で固定された接合部は、木の乾燥収縮によりゆるみます。さらに地震などの衝撃があれば、硬い金物は柔らかい木を破損してしまいます。つまり時間を経るにつれ最初の強度が損なわれやすいという弱点があります。
その点、伝統工法では、木の接合部に金物を使わず、手間はかかりますが緻密に細工された木と木をしっかり力強く組んで「木組み」そのもので耐力を生み出します。また、木の乾燥による微妙な経年変化で締付け強度を増すことも考慮します。いわば、木そのものが持つ力を最大限発揮する工法です。
金物を使わず木と木だけでガッチリ組む
木と木がガッチリ噛む
地震大国日本が長い経験から得た
知恵と地震への粘り強さ
現代的な在来工法は、木の接合部を金物で固め、さらに筋交い(すじかい)でガッチリ固めることで建物の強度を出します。いわゆる「力に逆らう」構造。地震で地面から強い力が加わると家全体でその振動が増幅するため、負荷がかかった接合部に緩みや割れが生じやすく、建物は一見無事に見えても強度が致命的に低下していることがあります。
日本古来の伝統工法は、木組みでしなやかに粘る軸を構成し、軸全体で「力を吸収する」構造をとります。個々の接合部にかかる力がうまく逃がされるため、揺れによって接合部の構造木材が金物に破損されることもありませんし、接合部にゆるみが生じた場合でもすぐに打ち締めなおすことができます。
これは100年以上長持ちする家には欠かせない要素です。数百年にわたりその姿をとどめている寺社仏閣などは、この構造でつくられています。
地震による揺れに粘る躯体
今では少なくなった太く頑丈な大黒柱
高度な技術が必要な、職人の腕が問われる工法
現代的な工法は、金物を多用することで施工が簡略化・効率化されており、職人の技術レベルにさほど多くを頼りません。戦後の建設ラッシュ下の「大量生産と普及」に適していた工法です。
伝統工法では職人に高い技術力が求められ、また手間もかかります。大量生産には向きません。例えば、木と木を継ぐための緻密な仕口と継ぎ手には、機械加工に適さず「手刻み」でなければ出来ないものもあります。また樹種による材の特性や、木の目にそった収縮などの経年変化を読むといった経験と勘どころも必要です。
墨だしで木の伸縮を読む
木と木が噛み合う仕口を刻む
手入れした鉋(かんな)で仕上げて艶を出す
ひと手間かけて刻みは続く
丸太の曲線を活かせるのは手刻みだけ
構造体としての意匠性・造形美
「あらわし」といって、天井板を張らずに梁などを見えるようにつくることがあります。近年、ナチュラルテイストの家でよく梁があらわしになっているのを見かけますが、一般的な工法では構造用金物が露出し、見えてはいけないものが見えてしまっている「作業途中」のような、かえって無粋な感じになってしまいます。
伝統工法の構造躯体は、自然の材がもつ曲線美や重厚感、随所の継ぎ目に見られる緻密な細工など、寺社仏閣で見られるような「あらわし」にすべき美しさがあります。ちなみに、あらわしの構造躯体は状態チェックやメンテナンス上も大きなアドバンテージになります。
随所の細工
古材を活かした吹抜け
曲線と重なり